香盤表の組み方は「順番を決める」ことではない
香盤表の組み方を教えてほしい、と言われたとき、私たちがまず伝えるのは、香盤表は撮影の順番を決める書類ではない、ということだ。順番は結果にすぎない。香盤表が本当に決めているのは、「予定どおりに進まなかったとき、どこから壊れていくか」である。撮影日は必ず押す。天候、機材、芝居、移動、どれか一つは想定を外れる。だから香盤の設計とは、押したときに作品の核が最後まで残るように、壊れる順番をあらかじめ決めておく作業だ。
私たちは2012年の創業以来、物語映画とドキュメンタリーの受託制作を企画開発から完成・納品まで手がけてきた。その中で組んだ香盤で、一行も動かずに終わった日はない。それでも作品が破綻しなかったのは、順番が正しかったからではなく、崩れ方を先に決めてあったからである。以下、私たちが実際に踏んでいる手順で書く。
最初に埋めるのは、動かせないもの

香盤を白紙から組むとき、脚本の一場面目から並べ始めてはいけない。最初に置くのは、こちらの都合では動かせない条件だ。
一つは光。ロケハンの報告書には、候補地ごとに「この場所で撮れる時間帯」を一行で書いてある。西向きの窓辺は午後の三時から四時半、屋上の引きは日没前の二十分。この窓はカメラの都合で広がらない。二つ目は許可。施設が平日の十時から十六時と言えば、それが撮影日の外枠になる。三つ目は人。俳優の拘束時間、子役なら法令上の時間、取材対象の仕事の予定。四つ目は音。踏切の間隔や学校のチャイムは、その時刻に台詞を録らないという形で香盤に入る。
この四つを先に置くと、一日の中に「ここしかない」枠がいくつか浮かび上がる。香盤表の組み方の半分は、この固定点を見つけて動かさないことに尽きる。残りの場面は、固定点の隙間に流し込む。順序が逆だと、脚本順にきれいに並んだ表ができあがり、当日になって光と許可の両方に裏切られる。
場所で束ね、セットアップで並べる

固定点を置いたら、残りの場面を場所ごとに束ねる。同じ部屋で撮る場面は、脚本上で何日離れていようと、同じ時間帯にまとめて撮る。これは誰もが知っている原則だが、実際の香盤を見ると、脚本順の誘惑に負けている表は多い。
場所の中では、さらにセットアップで並べる。セットアップとは、カメラ位置と照明の組み合わせのことだ。ある方向を向いたライティングで撮れるカットを、場面をまたいで全部撮ってから、次の方向へ移る。私たちの現場で一日の時間を最も食うのは芝居でも移動でもなく、照明の転換である。転換の回数を数え、それを減らす順序を選ぶだけで、一日の実撮影時間は目に見えて変わる。
ここで衣装と美術の連続性が問題になる。同じ場所でも衣装が違う場面を混ぜれば、着替えの時間と間違いの危険が増える。私たちは香盤の各行に、場面番号と並べて衣装番号と小道具の要点を書き、束ねた順序の中で着替えが何回発生するかを数える。転換の回数と着替えの回数、この二つの数字が少ない順序が、たいてい正しい香盤だ。
重いものを先に、ただし芝居は別に考える
一日の中の配置には、もう一つ原則がある。技術的に重いカットを午前に置く。特機を使う移動撮影、雨降らし、人数の多い場面、段取りに時間のかかるものは、スタッフの体力と集中が残っているうちに片づける。午後の遅い時間に難所を残すと、押した分が丸ごと難所に乗る。
ただし、これを芝居にそのまま当てはめてはいけない。感情の頂点となる芝居を朝一番に置くと、俳優が場に入る前にカメラが回る。私たちは、その日の最も重い芝居を午前の後半か午後の前半、現場が温まり、かつ疲れ切っていない時間に置くことが多い。技術の重さと芝居の重さは別の軸であり、両方が重いカットは、一日の中で一つに絞る。二つ重なる日は、香盤の段階で撮影日を分ける判断をする。
ドキュメンタリーでは、この軸はさらに変わる。固定点は取材対象の一日そのものであり、香盤はその人の予定に沿って組む。私たちがここで先に決めるのは、撮る順序ではなく「カメラを回さない時間」だ。相手が話す気になるまでの時間、食事、休憩。それを香盤に空白として明記しておくと、スタッフが埋めようとして相手を疲れさせることがなくなる。
押したときに切る順番を、先に書いておく
ここが、香盤表の組み方の核心である。私たちの香盤には、各カットに三段階の印を付けてある。無いと作品が成立しないカット。あれば作品が良くなるカット。後日か別の場所で代替できるカット。
撮影日が押したとき、現場で「どれを諦めるか」を議論する時間はない。議論した瞬間に、さらに押す。だから諦める順番は、企画の机の上で、監督と制作が冷静なうちに決めておく。三番目の印のカットから順に落とし、二番目に手を付ける前に一度立ち止まり、一番目には最後まで手を付けない。この順番が全員に配られていれば、押した午後の現場でも、誰も慌てない。
予備日を取れる予算なら取る。だが予備日は、落としたカットの受け皿であって、香盤の甘さの逃げ道ではない。予備日があるから押してもいい、と現場が思い始めた日の香盤は、すでに破綻している。
香盤表は設計図ではなく、配布物である
最後に、書き方について。香盤表は制作部の設計図ではなく、俳優から車両の運転手まで、その日に関わる全員が読む配布物だ。だから、私たちの香盤の各行には、時刻、場面番号、場所、カットの内容の要約、出演者、衣装番号、必要な機材と美術、そして先ほどの三段階の印が入る。読む人が自分の欄だけを見て、いつどこで何を用意していればよいか分かる形にする。
そして、変更は一箇所からしか出さない。現場で順序を入れ替えたとき、口頭で伝わった変更と紙の香盤が食い違えば、その日の後半は必ず混乱する。変更を出す人を一人に決め、差し替えは版数を付けて全員に渡す。香盤の順序設計がどれほど正しくても、共有の設計が壊れていれば、撮影日は壊れる。
香盤表の組み方とは、結局のところ、撮影日に起きることを撮影前に一度すべて想像し、その想像を全員が同じ紙で共有することである。順番はその副産物にすぎない。
香盤の段階から、ご一緒します
大笑シネマプロは、物語映画とドキュメンタリーの受託制作を、企画開発・脚本・ロケハン・キャスティング・香盤からポストプロダクション(編集・カラーグレーディング・整音)まで一気通貫で手がけています。脚本はあるが撮影日が何日必要か見えない段階、ロケハンは終えたが順序が組めずにいる段階でも、ご相談ください。私たちの香盤は、撮影日を破綻させないために、破綻の仕方を先に設計する工程です。
大笑シネマプロ / Daisho Cinema Pro
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